小剣先山
今日は一日お休みとして、海に出ようという計画である。
相変わらずボッカはゆっくりとしたペースでしか進まない。焦る気持ちも無いわけでもないのだが、焦ったところで進むわけでもない。とりあえず1週間に一度くらいは身体を休ませないと 身が持たない。それにやる気も失せてしまうというものだ。今日は天気も上々、、これは楽しい一日が送れそうである。
さっきからミウラーはカヤックの組み立てやら調整やらでバタバタやっている。僕はカヤックのことは全く解らないから ミウラーに任せっぱなし。それでも”うんちく”のミウラーは説明が好きであり、全く理解できないし、理解しようともしていない僕を相手に一生懸命説明しているのである。良くは解らないが、良くもこんなペラペラなビニールの船で、あっちこっちに行こうと言う気持ちになれるものだなぁ、、と、少し人間離れした感覚に感心する。そんなこと言ったら、僕らだってロープに身を任せて岩壁を登っていったりするのだから、あまり変わりもないのかも知れないのだな。
ううむ。
僕らが普段やっているのはロッククライミング。大きな岸壁を登るんだ。ロープを使い、いろいろなギアーを使う。それに身を任せて、信頼して、登っていくわけである。信用できるのは自分の身体とギアー、そしてパートナー。
ミウラーとも何度かパートナーを組んだことが有る。岩壁でのミウラーも”うんちく”のミウラーである。どうやらこれは彼の習性のようであり、無視していても 別段怒ったり、機嫌が悪くなったりはしない。だから ”ふぅん!”っと適当に相槌を打っておけば それでいい。たまに 少しでも関心が在るような仕草を見せたならもう大変だ。説明が懇切丁寧に始まってしまい、最初のうちはとっても有り難いのだが、だんだん飽きてきて、折角説明してくれているので”悪いなぁ”とは思うのであるが そのうちどうでも良くなってしまうのである。

元地から見る小剣先山
片根さんはマウンテンバイクに乗って どっかに出かけていった。
”今日は風が悪い”っと言っていたが、どうなのだろうか?
ミウラーの組み立ては、なんだかんだと1時間近く続いている。実際、組み立てることには別段興味が無い僕はというと、テレビを見たりしてぶらぶら時間をやり過ごしているのである。暇だなぁ。
マウンテンバイクにまたがった片根さんが戻ってきた。どうやら海の様子を見に行ってきたようだ。
”だぁめだぁ〜”
甲高く響く片根さんの声はそう告げた。どうやら風が強く、島の西側は波が高いという。南京浜の方までずっと見てきたそうであるが、どこもかしこも波が立ってしまっていて、海でのカヤックが始めてのミウラーと カヤックなんて全く知らない僕では、危ないということなのだろう。無理をすれば海に出られないわけでもないが、下手をすれば帰って来られなくなってしまうかもしれない。残念だが 今日はカヤックは出せないというのである。そう告げると片根さんは諦めよく部屋に戻ってしまった。何も無理をして海に出ることはないのである。
”まぁたきっと、いい日がくるよ!”
島に住んでいる人にとってはチャンスはいくらでもある。母島は常夏。一年中いつでも船は出せるし海に遊びに行ける。海は1月1日に海開きをし、一年中開きっぱなし。海は一向に閉まらない。そして再び元旦が来れば、海開きなのである。
まぁ一応形式的に 海開きをするというか、それを口実にイベントにするというか、そんな感じなのである。
とは言っても僕らには限られた時間が有る。いや、別段限られているわけではなく自分たちで勝手に限ってしまってるのである。そう、時期が来れば内地に帰らなくてはならないのである。だから今日のお休みは 僕らにとっては貴重なのである。さて、何をするか?
とりあえずプシュ!っとして ぶらぶらしている。保育園の方に行ってみたり、辺りを散歩する。それはそれで充実する。川の端にネコがいる。”わっ!”っと脅かすと、5メートルくらい逃げる。様子を伺っているので暫く隠れていて 再び顔を出し”わっ!”っとやると、今度は10メートルくらい逃げるのである。”なんだこいつ!?”というネコの表情が滑稽だ。おかしいので5〜6回繰返してやっている。そのうちネコは向こう側の橋の方まで逃げていってしまった。
”なんだ、根性なしめ!”
”馬鹿やろう!酔っ払いなんかにかまっていられるかい、こちトラ忙しいんだニャン!”というネコの独り言が聞こえそうだ。ナンだねこも遊んでくれないのか。生意気だな。
再び暇になり、ぶらぶらボーっとしていると、ふと小剣先山が目に入ってきた。コーハツからは すぐそこ。稜線に立つのはナンの杭だろうか?規則正しく並んだ杭が良く見える。山頂には心地寄さそうなシェルターが”ぽつん”っと見えていて、前から行ってみたいなぁとは思っていた。小剣先山は集落を見下ろすようにある山で、割りと格好の良い山である。
”あれは近いよ。5分で登れる。”
片根さんが言う。
5分? そんなに近そうには見えないが、遠くも無さそうなのでいいチャンスだから登ってみようと思いたつ。
上り口は案内板があるからすぐ解る。毎朝お散歩している2頭のわんちゃんの家の所から登り始めるようだ。暫くは広い階段があり、つづら折りに枯れ葉が多く邪魔臭い。小鳥達の格別に多い谷川に回り込み、そこから道は二つに分かれ、左は稜線を行く。ここには鎖が付けられていて、ちょっとした岩場になっている。乳房山の岩場よりは本格的で、岩に丁寧に刻まれたステップを踏み外さないように登る。酔っ払いなので 足元がふらつくな。おまけに馬鹿にしてギョサンで上ってきたので不安定極まり無い。
眼下にはミウラーと片根さんが見える。確かに近い。もう既に、さっきまで見えていた杭の所までは登ってきた。あの規則的に並んだように見えていた杭は、この鎖場の杭だったのである。鎖場を一気に抜ければ山頂はすぐ。ほんの数分で山頂に到着できた。集落から見えているように山頂にはシェルターがあり、気分よさそうな見晴らしのよい場所である。ここから大剣(大剣先山)との間には谷が有るから、似たような名前だが稜線は全くつながっていない様子である。ここからは乳房山や鮫が崎の方向も良く見える。なかなか気分が良い。片手にもってきたビールをプシュ!っとやり、予定どうり至極の一時を過ごし始めようと思う。
思ったより広い山頂には山頂を示す看板、そして三角点がある。シェルターは座ることは出来るのだが、座ってしまうと景色が良くない。出来ることなら横になってのぉんびりと酒でも飲み、海でも眺めていたいのだが どうやらそいう具合には行かない様子である。おまけに陽射しが強く、シェルターの日影はシェルターのイスからは遠く離れてしまっているので直射日光をモロに食らうのでクソ暑い。
”こりゃぁ たまらん”
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山岳ライター・柏澄子の毎日。 ヒマラヤ山岳地域やチベット文化圏の民族、暮らし、文化などをテーマに執筆。仕事部屋の様子、取材の話、クライミングや登山、旅の話などなど。古満目に更新されています。見習わなくては。。。
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