ミウラーがやってきた
季節外れの台風一過の晴天は今日も続く。 台風が去ってからは身体で感じて解るように一段と気温が下がってきた。どちらかというと”暑くなくなった”という具合で、僕にとってはかえって動きやすい、気持ち良い、過しやすい、、、そんな気候になってきた。ところが 島の人間達は
”う〜さむ!”
を連発する。島民にとってはどうやら寒い冬の始まりのようである。
”ふぅむ、そんなモンかなぁ、、、?”
確かに短パンTシャツでは 朝夕は肌寒い感じではある。とはいっても 高原の朝、そうだな夏の上高地の朝などと比べてしまえば 比較にならないほど温かい。
にわかに賑やかなガジュマルのT字路を左に曲がり 原チャリで坂道を登っていく。今日はおが丸の入港日である。島には少しだけ活気が出る日なのである。台風の影響で、おが丸の出港が欠航したり出発時間が遅れたり、変更になるということは結構在るらしい。これが酷いときには予告無しに遅れて出港したり、途中で”台風の通過待ち”をすることもあったという。
”予め電話してこまめに調べておいたほうがいいよ!”っとミウラーには言っておいたが、どうやら竹芝出港は、時刻表どうりだった様子だ。ミウラーからの”明日行くから、、、”という電話は、出港直後に 昨日のうちにもらっていた。たぶん、東京湾のどっかを動いていたのだろう。こういう電話がくると、会話の端々に同じ東京都とは思えない、、空気感のギャップを感じる瞬間であり、まるで僕が大都会東京にいると思い込んでいるかのように 僕を呼びだす。逆に同じ日本であるという現実との違和感を運んでくる。携帯電話は とっても不思議な感覚だ。
母島では1999年12月18日より、NTTドコモの携帯電話が使えるようになった。地形の関係もあるため使用できない場所もあるのだが、集落内ではよく聞こえる。乳房山の山中、北港、南崎など集落から離れた場所では通じませんが。ところが妙な感じで海上では通じ、父島〜母島間では ほとんど携帯電話が通じるのである。ははじま丸では 常に?ドコモのケータイが使える。中継基地は父島のものなのか?母島のものなのかは良く解らないのだが、、、ただし 小笠原ではiモードは使えないので、iモードメールは残念だが使えない。これが使えれば とっても便利なのだが残念だね。ただ、 少なくとも1000キロは東京より離れているので、余りに遠すぎて、予想ほど電話料金は高くない。どうやら 何キロか以上は料金がフィックスになってしまうようだ。逆に近場で携帯を使った場合にはこの逆になり、特に携帯から回線電話にかけたときには割高になってしまうというのだが本当なのだろうか?
ちなみに公衆電話からの有線電話も、東京23区内に掛ける分には割安になっている。
おがさわら丸では出港してしばらく、大島の辺りまでは、携帯電話が通じる。東京湾では、千葉と神奈川の陸地が見えているから当たり前なのだが、移動していってしまうので長い時間は話が出来ないようである。東京湾の中でも 暫くすれば綺麗な海が辺りを包んでくれる。それ以降 海上では通じなくなってくるが、八丈島、三宅島の近くに来ると、携帯が通じる。携帯電話の”圏外”が消えると、島が近いんだな!っと 島の存在をしるのである。あとの海上は通じなくなる。おが丸はどんどん進む。
辺りが大きすぎて、どのくらい進んでいるのか、どのくらいの早さなのか?は定かでない。僕らは早さを知るのにメーターに頼っている。それでなくても 何か他のものに比べてみたりすることによって、自分の早さを比較判断して知ったりする。日常生活の他の事柄も、そういったことで、なんとなく客観的に認識したり判断しているな。そんな気がする。どんどん海の色は変わっていく。
風が気持ち良い。僕はそう思う。だんだん変わってきていることが、僕自身として、、、、そして、きっと誰でも、おが丸に乗っていれば解るのである。夜を迎え、美しい夕陽を眺める。夜中に鳥島を通過。朝焼けの頃には海の色が違う。風が違う。
なぁ〜んにもない大海原。キラキラと美しい。再び携帯が通じるのは父島に到着する1時間くらい前から。聟島列島が見え、しばらくすると 通じ始める。26時間という長い時間は、空気感のギャップを埋めるには必要な時間の様な気がする。日常を越え、違った次元の場所へと辿り着いたのだ!という そんな空気。
さらに 母島までの2時間が、僕と母島の仲間の、、、、そうだな、、、母島に戻る態勢を僕の中で作り上げてくれるのである。
今回の船ではミウラーもやってくる。ひとりぼっちの荷上げも本日限り。明日からは二人でボッカすることになるから、少しだけ気が紛れるかなぁ。 島はいつもとは景色が違う。台風の影響で塩にやられて枯れてしまった葉っぱのおかげで そこいら中は妙だ。前浜のハイビスカスもちりちりと葉っぱを丸めてしまっていて、見た目にみすぼらしい。こんなになってしまって 本当に元どうり元気に花を咲かせるのだろうか? ジャングルは枯れ葉だらけで妙に明るい。普段はうっそうとしている常緑の木々の葉が枯れてしまっており、茶色の山肌は見た目に不思議である。それに落ちた葉っぱの青臭い臭いがそこいらじゅうにたちこめている。
材料置場に到着すると お決まりの作業。材料の丸太を広げて並べ、少しでも乾くようにと太陽の光が当たるように細工をする。台風が過ぎ去ってから材料はしこたま濡れてしまった。少しでも乾かして軽くしてからボッカしたいものである。風が通ってくれれば乾きも早い。 ひとしきり並べ終わると煙草に火を付け一服。あまり気乗りはしないのだが
”仕方がないな!”っと 本日の一便目を出していく。
ボッカ道にも相変わらず枯れ葉がたまり、邪魔臭い。 メグロ達も台風の間はどこかに避難していたのだろうか? ちょっぼちょぼと姿が見掛けられるようになってきた。少しだけジャングルは日常を取り戻そうとしている。
涼しくなったとはいえ ボッカを始めてしまえばやはりクソ暑い。息を切らしながらトレースを下ばかり眺めながら登っている。 地面はそこそこ乾いてきており、粘土質でぐっちゃぐちゃという最悪事態は免れているが、気を抜くと すってんコロリンと足を滑らせてしまう。すんごいムカつく。 変わったこと。アフリカマイマイはマイマイ、そうカタツムリの仲間。どうやら やはり、塩には弱いらしく、めっきり姿を見かけなくなった。こうして全滅してしまえばいいようなモンだが、そうはいかないからあんなに大量発生しているに違いない。 片手に持っているストックで 溜まり積もった落葉をどかしてみると、そこにはいくらかのマイマイが出没する時期を見計らっているのだろうか? 不気味に隠れている。マイマイは寒くなると動かなくなってしまい、こうした葉っぱの下などに隠れて冬眠状態の様に成るようである。今は 寒いのもあるが 塩が凄いことになっているので、やはり葉っぱの下に隠れているみたい。おかげで 少しだけ気持ち悪い遭遇はしなくてすむのだが、隠れた葉っぱごと踏んでしまうと やっぱりカシャ!”うっ!”っとなるのである。仕方がないからトレースにある大量の落葉を こまめにストックでどけていく。
稜線の折れた枝も ずいぶん整理できてきた。
強風に耐えられない枝や木が大量に倒れてしまっているのだが、これをいちいち除けて歩いていては作業が大変だ。疲れて仕方がないからノコギリで切ったりして歩きやすいように邪魔者たちを整理していく。
”うっそぉ! こんな太いのまで倒れちゃうの?”
というくらいの大木も、切ってみると意外と簡単に切れてしまう。育ち易い分 幹はそれほど固くなく、南国の木々の葉っぱは大きいから、受風面積は必然的に大きい。だから 葉っぱは異常なくらいに取れやすく、風が吹けばそこいら中 落葉だらけになる。葉っぱが落ちなければその風の力は木の幹へと直接伝わっていくだろう。それこそ強い風が吹いたら幹ごと折れてしまうのはそういうことなのだろうから仕方がないな。そう納得してしまう。かと思えば、なんでこんな?っと、根こそぎ倒れてしまっている木もある。土壌自体も不安定といえば不安定で、どうやら幹がいくらしっかりしていてもダメな様子。適当に風に吹かれてたなびき、強風が当たれば枝の数本は折れてしまっても仕方がない。いいよ、またすぐ枝はのばせばいいんだから、、、、っと、そういう感じに木々達は生きてきているのかも知れないな。
午前中に頑張って3便を出してしまい 遅いお弁当を食べる。ほのかに吹き抜ける風が心地よく、こうしていると非常に幸せな気分になる。いや、非常ではなく、今は日常なのである。なんたる贅沢なのだろう。。。
うとうとと日向ぼっこ、うたた寝。
メグロ達が 枝から枝へとちょこちょことしている。
平和だなぁ。。。
ボォーーー! ボォーーー!
時刻は14時を回っている。ははじま丸の入港だ。
さてと、ボチボチ行こうかな。出迎えに行かないと ミウラーに、ながしまは薄情な奴だと言われてしまいかねないからな。
急坂を下っていくと 丁度入江を入ってくるははじま丸が見える。”やばい! 遅れちゃうかな。急がねば!”原チャリにムチを打ち、港に直行する。おっと危ない。下り道は急だから道からはみ出してしまいそうだ。体中の汗が一気に冷やされ寒いくらいだな。
港に到着すると 既に駐在さんやらたくさんの人が出迎えに出ている。ははじま丸は着岸寸前だ。ミウラーはどっかに見えるかな? これから乗客が下りてくるまでの間の時間は結構長い。岸壁の前で旋回し、うじうじと岸壁に寄ってきて 始めに細いヒモを投げる。なにやらボーリングのピンのようなものが付いていてこれを重りにして船の上から投げている。これを拾った港の人は ヒモを引っ張る。すると細いヒモの先には 太いロープが付けられていて、このロープの輪っかを港の杭に掛け、このロープを引っ張るような形で 船は横に動き、岸壁に近づくのである。やっと着岸すると、数人がタラップを押してきて乗船口にはめ込む。この一連の作業が完了すると、やっとこ乗客が下りてくるのである。
そうかそうか、ははじま丸の ボォーーー! ボォーーー! っを聞いてから、ゆっくり港に来ても、充分間に合うんだな。時刻は既に15時近くになってしまう。今日は少し遅れているようだ。あの台風交じりの天気だったからなぁ。 えっとぉ、ミウラーはどこじゃろうか?ぞろぞろと下りてくる乗客は それほど多くはなく、相変わらず観光客とおぼしき姿はほとんどない。僕の時と同様に、作業服やらに身を包んだ 仕事のために来島している人が目に付く。
いたいた。
やたらと大きな荷物を持ったミウラーを発見。久し振りに見かけるミウラーは一段と丸みを帯び、人相の悪いサングラスをしている。
”いやぁ暑いねぇ”
”お疲れぇ〜。これでもぐっと涼しくなったんだよ!”
おそらく船は揺れただろうな。前回の時には 揺れるおが丸で気分が悪そうにしていたミウラーの姿が思い浮かんできた。晩飯の時も 食欲が無いらしく、サラダとコーンスープかなんか、、、まったく若い女の子が食うようなメニューをげっそりとしたミウラーが食っている様は、僕の記憶にしっかり残っているのである。今回は台風が来た後すぐだから、さぞや大変だっただろう。
”ゲロンパ!かな?”
と思い気やそうでもないらしい。からかい半分でいらのに ナンだつまんない。なんでも今回は薬を飲んで来たらしい。そうしたら 出港してすぐから 良く眠れたそうである。そういうことだったのか。
ミウラーが引きずっている巨大な赤っぽい荷物は? カヤックらしい。最近めっきりとクライミングはしてない代りに、カヤックにはまっているらしい。こりゃぁ 女だな? まぁいい、ゆっくりと話は聞きだすとしよう。なんでも今回は僕もコレに乗せてくれるらしい。そりゃぁ〜面白そうだ、今度の休みは楽しみだな。
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