小笠原名物ギョサン
交番の窓ガラスには 島ではどこにも売っていない”イルカのステッカー”が貼ってある。海原を跳びはねているシルエットに切ってあるシンプルなものだが、いくるかまとめて貼ってあると何やら楽しげで、ごちゃごちゃ文字やらデザインされたステッカーよりインパクトがある。始めて母島に来たときには このステッカーが欲しくてあちこち探し回ったものである。あちこちと言っても狭い集落。一日で、、すぐ終了となるのだが、、、、どこにも売っていない。民宿や飲み屋、農協、漁協、前田、、、観光協会にも売っていない。
”おっかしいなぁ”
そう思い駐在の東山さんに尋ねてみると、”いや、これは本官がつくりました”と。”交番が少しでも明るくなって 親しみ易くなるように、、て。だから何処にも売ってません。”
交番の駐在さんは 警視庁から来ている。そこいらは やはり東京都ナンだと感じる所だ。実は住いは僕と同じ埼玉で、狭山とか?言っていたような気がする。任期が3年。3年経てば母島を離れて行き、入れ代わりに違う人が派遣されてくる。島民全部で500人にも満たない島であるから、とりたてて事件など起こるような場所ではなく、平和な島だ。ただし 犯罪者などが紛れ込むような事態はあるのかもしれない。その証拠に オウムの指名手配のポスターやら、、そういった手合のものは、ちゃんと交番には張ってある。第一、この島で、、誰かが”アイツ、ナンか あの指名手配に似てないか?”っと言ったものなら、きっとみんながそういう目でチェックを入れるから、ああでもない こうでもないと盛り上がり、隠していけるものではない。犯罪者が紛れ込むとはいってもここの交通手段はははじま丸のみ。だから、ははじま丸を見張っていれば いろいろな事態がすぐに解る訳である。僕らが来たときのも、”不審な入島者が来たな”っとみているのかもしれないな。島ではどろぼうが出ても、すぐ誰だかバレてしまうくらいなのである。突然羽振りが良くなった。仕事で儲けた感じでもない、、、なぁんてなってしまえば、実は犯人は誰だかなんてぇのは みぃんなが知っている。そんな感じなの。交通事故も大して起こらない。まぁ 喧嘩はたまに起こるようだ。駐在さんは さぞかし暇だろうと思うのだが、パトロールやらで忙しそうだ。結構こまめにパトロールに出かける。
島は狭い。そして小さいから”そんな硬いことを言わなくったって!”と思うのだが、狭い島だからこそお互いの立場を認めあってバランスを保っている。もしバランスが崩れて秩序が乱れ始めれば、あっという間におかしくなるという暗黙の危機感、お約束が根底にある。だから 取り締まらなくていけない立場の人のことも理解し、受け入れなくてはいけない。身内のような中、取り締まるのも辛いのである。島全体がそうして成り立っている。
この交番には ビデオも置いてある。誰でも貸してくれる事になっている。要するにレンタルビデオ。しかし内地のレンタルビデオとはちがいアダルト、と呼ばれるようなエッチなヤツは無いようである。なんだ つまらない。。。そりゃそうか。いくらナンでも交番でアダルトビデオはまずいかな。
とにもかくにも 交番はその独特の”固さ”をなんとか和らげようと、島に溶け込むようにとしている様が伺えるのである。今度僕が行くときまでには、DVDのレンタルも始めて欲しいなぁ。さすがにビデオデッキとテレビは持って行けないけど、ノートパソコンは持っていっている。だからね、DVDは 見られるんだぁ。だからね! レンタルしても見られる訳ですよ。是非お願いしたいなぁ。
島の移動手段は 圧倒的に原チャリが便利だ。ここも日本。だから原チャリと言えども運転するには免許はいるし、ヘルメットは被らなくてはいけない。車は左、これは内地と全く一緒。全く同じ法律の元で取り締まられている。だから当然 飲酒運転も取り締まられる。居酒屋コーハツの前ではパトカーが赤色灯をくるくる光らせて、少しだけ様子を見ていくのが毎日のパターンとなっている。ううむ。怪しまれているのだろうか?
車はある。しかもナンバーは”品川ナンバー”である。大都会品川のナンバーがここでも使われているのには、最初は違和感を覚えるだろう。なんてったって スモッグで薄汚れた都会のイメージの品川と ここでは、イメージが違い過ぎるのである。青い空、青い海。辺りを眺めても、人間の姿よりもメグロの数の方が多いのは明らかだ。集落はほんの一部分。他は 全く、、、自然が勢いよくそのままの姿で存在する。しかし、島のはじっこの方まで行かなければ、その辺の移動には原チャリで充分だ。自転車だと坂道がきついから、ちょっと疲れる。でも ナンとかならないわけではない。
ガソリンスタンドは異常に解りにくい。知らなければ発見することは無理じゃないかな? 集落の奥、乳房山の登山道の辺りにある。どうみても 単なる建設会社の中であるが、ここがガソリンスタンドだ。ここには 人を見ると良く吠える犬が2頭いる。結構大きいのでチト襲い掛かってこられるとビビる。
島では未だに整備開発が進められているから、工事の車両も多くある。トラックやらダンプやら建設重機はたっくさんある。これらが集落の中を走り回る平日は、なんだか工事現場の中のようで 美しい南国の島というイメージとは程遠い。観光に来たとしたら、きっと”なんだコレ?”っとびっくりするに違いない。島の生活が長い峰子さんなんかは、ああして工事車両が走り回っていると、島中活気があってうれしいと言う。感じ方の違いである。島を工事車両が走るということは仕事がある、お金が入る、、だから活気がある。そういうことらしい。
島には他に産業といっても、農業と漁業くらいである。
最近は観光に着目されているようだが、この余りに長い時間的制約のお陰で訪れる観光客には限りがある。少ない観光客はその大半が父島まで、、、というのが多く、母島に来るのはせいぜい10人くらい。おが丸が毎回コンスタントに連れてきたとしても少ないよね。この人達が使っていくお金なんて 大した額ではない。だから、観光もイマイチ洗練されない感じがある。まぁ それがここの良いところなんだけど、、、おみやげ屋さんすらない。父島にはそれなりに色々あるのだけれど、、、ここでは おみやげは観光協会に置いてあるよ。今、新しい建物に建て直しているから、今度訪れた時には立派になっているのかなぁ?
島の生活に欠かせないのはギョサン。父島では”小笠原名物ギョサン!”という微笑ましい表現が使われている。一瞬ナンだろう?って思うのだが、漁業サンダルの略。漁師さんの履いているサンダルのことを言う。本当に漁師さんが履いているかどうかは定かではないが、まぁ履いてるんだろうなぁ。別に珍しいものではなく、要するに一番安物のサンダルの事である。値段にして数百円。 えっ!高いって? そうだな、小笠原の物価は結構高い。島までの輸送費用がかかるしディスカウントストアなんてないからね。価格の破壊は起こらないんだ。
ボッカをしたり山の中を歩いたりするときには それなりの靴を履いたほうが便利である。島での一般生活はとにかく暑いから、ちゃんとした靴を履くなんていうのは面倒臭い。そういうときにはやっぱりサンダル。これがいい。特にこのギョサン、これは安くて丈夫で文句ない。一体成型だから縫い目見たいなものはなく、それっぽい柄が作ってあるだけだ。水に濡れてもすぐに乾くというすぐれ物。見た目にはかなりチンケである。安いものだから壊れたらすぐ捨てる。
サイズはL、M、S、とかLLなんてぇのもある。これはまぁ普通に理解できるよね。茶色いのが多いけど、父島では結構カラフルなのが売っているよ。ただ 大きいサイズになると色が選択の余地が無くなる。要するにみんな同じギョサンを履いているのである。だから 靴を脱いだときには注意しないとすぐ入れ代わってしまうのである。
このギョサンを履きこなすと、岩場をぴょんぴょんと移動したりすることも出来るらしい。本当かよ? なんだか思いっきり滑りそうだけどなぁ。河野のおやじさんなんかは ギョサンから指がこんなに出てるらしい。”こぉんなんだからねぇ!! へっへっへ!!”っと ワシっと成った様を峰子さんがやってみせる。全くこの人にかかると ナンでも”うすら可笑しいこと”に思えてくるから楽しい。一体どんなんだろう? 河野のおやじさんは知っているが、足まではじっと見たことはない。綺麗なねぇちゃんの足なら なめ回すように見るかも知れんが、じいさんの足を凝視するような趣向はあいにく持ちあわせてはいない。
おっと 久しぶりに居酒屋コーハツに現れたぞ。河野さんは島でも長老である。漁師ということになっているが、漁をしているのは見たことはない。まぁ海の上まで見に行く訳にもいかんからなぁ。なぁにしてんだか。。。 居酒屋では単なる酔っ払いじじい。いい味を出した貴重なメンバーである。どれどれ? 本当だ。親指なんか半分以上ギョサンからはみ出してる。こんなんだったらギョサンを履かなくたって 普通に岩場を裸足で歩いて行けそうに見える。もうギョサンを履いているというより、足にギョサンがめり込んではまっているという表現がイメージぴったり。
”ギョサンを脱いだらどうなってるんだろうか?”
新たな疑問が沸き上がってきた。
河野のおやじは テーブルの上にあった”ぶんたん”を見つけた。
![]()

只今、随時会員募集中。詳しくはWEBサイト及び直接電話等でお問い合わせください。
![]()

