カタマイマイ
交番の横には橋があり川が流れている。橋の下には申し訳程度に 水が流れている。島の水源、乳房山西面の水を集める乳房ダムから流れてくる川である。集落の水道はこの乳房ダムの水を利用している。島民の水瓶。この間まで干上がりかけていた乳房ダムには 今回の雨は恵みの雨となることだろう。あそこに貯まっている ちょいと?茶色っぽく濁った、、あの水が、沖村で生活する人達の貴重な飲水ナンだよ。ちょっと見た目には良くないよね。だから 島の人でも気になる人は 水道水は飲まないで ミネラルウォーターを買って飲んでいる。
でもさぁ、、一応水道なんだしね、東京の水なんかは 僕らが埼玉で”うんこ”とかして、、使った水をもう一度浄水して使っているんだし、、、そう考えると”大丈夫、問題ないよ!”っと思うのである。 しかしこれが、一旦水道水を飲むのを辞めてみると、そうだね、やっぱり身体の具合が良いような気になってくる。一度ミネラルウォーターに慣れてしまうと、確かに水道水はまずく感じられるのである。贅沢なモンである。
”折角ミネラルウォーターを使っても、製氷機の氷を使っちゃ 意味無いねぇ!!” そう、まもるが大笑いしながら教えてくれる。製氷機の氷を作っている水は、ダイレクト水道水なのだよ。ううむ。そうなんだけどね、やっぱ なんだ? 気休めかな?
沖村の上水場は乳房山登山道の入り口の近く。いつも水が流れている場所があり、そこがそうだ。ここには”これが?”という感じる、原始的な上水施設があり、ここから水道管へ送りだされている。都住とか、、高台へは、一旦ポンプで違う場所に上げていて、そこから更に送っている。何でだかは知らんが、結構複雑なことをやっている。
元地の集落は、この川に沿って出来た僅かな平地を中心にしている。この川は普段は、水が流れているというより”たまってる”という感じにしか見えないが、ひとたび雨が降れば、大濁流となってしまうから その変わる様相はものすごい。今では護岸工事がいきわたり、少々大げさとも思えるくらいにしっかりとなっているが、そうでない時期、、、この辺りは雨が降れば水浸し。そういうことに成っていたに違いない。想像するに大変な生活環境だ。
今日の川は落ち着いている。カモが数羽。おっとマガモである。捕まえて絞めたら美味いカモナベが出来るゾ! ネギは前田で売っていたな。っと思いながら眺めている。しかし こんな南の方まで良くゾ飛んできたモンである。きっと内地を通り過ぎてしまい そのまま あれよ、あれよ、、というウチに母島まで来てしまったのだろう。それにしても おかしいとおもわないのかな? いくらナンでも遠すぎるだろうに。引き返すことはしないのだろうか? 仲間のカモ達の中には、力尽きて海で死んだものも居るのだろう? そんな事を考えると、太平洋の中にポツンとあるこの島に辿り着けたこのカモ達はラッキーなのかもしれないな。
島では人間も動物も鳥も、、、みぃんな のぉんびりモードにはまっている。
なんでも このカモ、疲れ果ててげっそり痩せていて脂が乗っていないから、食っても美味くないらしい。ううん? 食ったやつが居るんかい?
今晩は 役場の千葉ちゃんとは違う、学者の千葉さんというのがやってきて、カタマイマイのお話をするという。そういう張り紙が 役場の前の掲示板に張ってあった。どうやら島では こういった勉強会が、わりと頻繁に行われるようである。それは 島全体に極普通に展開される 貴重な動植物や天然記念物に対しての認識をし理解していくという 目的があるのである。島民は これまた興味をもち、こうして良く勉強しているし、だから みんなは島の自然のことは良く知っているんだなぁ。
場所は役場の大広間。坂入さんに聞いてみると、”参加したければ誰でも参加できるよぉ”らしい。おもしろそうだな? なんだろう?カタマイマイというのは? 居酒屋コーハツの面々も今日は こっちに参加するらしい。
夕方早めにボッカを終えて、そそくさと風呂に入り、メシを詰め込むと役場に行ってみる。役場は前田商店の販売機より少し遠いから45秒くらいで到着する。前田の販売機は30秒くらい。 役場の前にはすでに人が集まり始めている。ギョサンを脱いでカラビナで押さえておく。小笠原では 大抵同じギョサンを履いているから、何かマークを付けておかないと、自分のがどれだかわからなくなってしまうから。大広間にはいると、観光協会の坂入さんが居て、なにやら紙をくれた。坂入さんと木下さんも来てる。あんこちゃんこいる。大盛況である。
大広間は畳み敷で、車座。講演というより宴会みたい。身近で親近感の沸くスタイルだ。名前は知らない人達がいっぱい居る。
なんか こんな場所に参加してもいいのかなぁ。
はじまりの挨拶は 観光協会の会長でもあるとどむさん。進行は坂入さん。なぁんだか めちゃんこ身近である。和やかに会は始まった。
学者の千葉さんというのは、実は役場の千葉ちゃんと知り合いである。役場の千葉ちゃんが父島のユースで働いていたころに 宿泊に来たのが当時まだ学者の千葉さん。どうやら そこで さんざん酒を飲ませられ、悪の道、小笠原への誘いに魅せられたらしい。いや、引き込まれたのかな? それからというもの 小笠原に興味をもち続け、揚げ句の果てにカタマイマイの研究に没頭することとなったといういきさつらしい。
小笠原は大洋島で貴重な動植物がある。特に,森林に生育する小さなカタツムリの仲間は95%が固有種で、カタマイマイもその一つ。マイマイといえばアフリカマイマイが 今では圧倒的な数で有名?あるが、カタマイマイは数こそ目立たないながら貴重な固有種。
学者の千葉さんは 小笠原に魅せられ、このカタマイマイのルーツを探すべく遺伝子的な研究をしている。カタマイマイはどうやって小笠原にやってきたのか?
カタマイマイは 要するにかたつむり。昔は足が生えていて、ヒレがあり、海を泳いでやってきた、、、とか、いや羽が生えていて 大空を飛んでやってきた、というのは 冗談としては面白いが 多分在りえない。たぶん自力で海を越えてやってくることは出来ない感じがする。だから、流木に乗って流れ着いたり、渡り鳥にしがみついたりして小笠原にやってきたと考えるのが一般的だろう。
カタマイマイはナンバンマイマイ科に属しており、小笠原のナンバンマイマイ科は天然記念物に指定されている。ナンバンマイマイ科のカタマイマイには、木の上で生活する比較的小さく軽いものと、地面に近い場所で生活する種類の2つに大別できる。マイマイが木の上にいるなんて! ボッカしていて下ばかりみているから、マイマイ イコール地面にいるものと思っていた僕には新鮮な感覚だ。全く気が付かなかったなぁ。そういったカタマイマイの移動範囲は人間が考えるよりずっとずっと狭い。そして見た目にも解るように とっても遅い。そんなカタマイマイにとって母島は とてつもなく大きな広い場所となる。
離れた場所のカタマイマイ同志が交流を深めるのは容易なことではないのである。そのため孤立して 環境に応じて様々に変化・進化したカタマイマイが存在するようになる。住む場所によりカスタマイズされてくるわけである。母島にもたくさんの種類のカタマイマイが存在し、大洋島であるから限りなく外部からの影響を受けずに自由に変化・進化したことになる。この変化・進化を知ることは、生物の進化の状態を知るうえで とっても貴重なものとなる。もしかしたら 人類の進化や、将来に関する重要なポイントが隠されているのかも知れない。ロマンだなぁ。。。
母島のカタマイマイは 場所によって違う。これは以前の調査によると明らかだ。その資料によれば、結構な数のカタマイマイが あちこちで見られるようである。ボッカの作業中下ばかり見ているから、そんなにたくさんいれば気が付きそうなモンであるが、圧倒的なアフリカマイマイの数に比較するせいか?カタマイマイは ほとんどお目にかからない。
とどむさんは”かたつむり”と呼んでいるのがカタマイマイの事の様だ。どうやら島民は アフリカマイマイをマイマイと呼び、カタマイマイの事は”かたつむり”と呼ぶみたいだ。ちゃんと無意識?に区別している様子なのである。
この講演の後 注意して歩いてみても、ほとんど見かけない。同じように講演会に参加していた、森林総研の大河内さんというのが、ボッカ道の回りでゴソゴソやっている。実はこの森林総研なる一団とは、ここにやってくる時のおが丸で一緒になり、偶然僕の近くにいたのである。長い船旅、暇を持て余して音楽でも聞きながら酒をチビチビやっている僕。その傍らに十数名の研究員?とおぼしきが居り、聞くとも無しに耳に入ってくる会話によれば、彼らは小笠原の自然にかかわった商売?をしている。そのドンがどうやらこの大河内さんの様である。アンラッキーなことに 良くしゃべる若者が僕のすぐ横にいて、頭の向こうに大河内さん。僕の頭は まともに会話の中心に割り込んだような形になっていた。コンピューターやら企画書みたいなものまで持ちだして、熱い意見交換とやらが行なわれている。ふうん。こういう人達もいるんだなぁ。なんだ、みんな揃ってなんだかんだ言っているが、良うするに小笠原を食い物にしているお役人みたいなモンじゃないかぁ。。。 あれ? そう言えば僕だって ボッカして金もらうんだから、オンナジ様なモンだかぁ。人のこと言えた立場じゃぁ〜ないよなぁ。。。。。 と思ったが、口に出すまではしなかった。それゆえ、一応これまでは 大河内さんと僕は お互いに知らない他人ということになる。
”なにかなぁ?”と思い聞いてみる。
”千葉さんから資料を借りて、見に来ている”らしい。
地味なことが好きなんだなぁ。。。 いや、それは他人のことは言えないか。
”その資料は何年前のものなんですかね?”と興味があったので聞いてみると、20年前の物らしい。20年?? そんなに経っていては、もう状況は全く違うはずだな。どうりで余り目にしない訳だ。大河内さんは、”全然見当たらない”と ごそごそ、葉っぱの裏を見たり、落葉をひっくり返したりしながらやっている。カタマイマイを探しているのである。20年前の当時は そりゃぁ〜たっぷりいたのかも知れないが、今はその個体数は激減していると思われる。島の様子は確実に変わっていくのだ。その後数日間に渡って顔を合わせることに成るのだが、一向に状況は変わらない様だった。
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