hahajimaLife


       まずは お仕事を始めようか?



    翌日は晴れ。11月とは言え、小笠原ではまだまだ暑い。

    当然 半袖のTシャツ姿で充分。町中では短パンで充分というより、それでも暑さを感じるくらいである。

    おまけに雲一つ無い晴天だ。日向に出れば ぽっかぽかを通り越しているのである。9月くらいの気候といえば良いのだろうか。
    実はここに来る前には、僕は北海道にいた。初冬の北海道。 雪はまだ積もってはいないほどではあるのだが、毎日、毎日、小雪ちらつく寒い中に居たのである。ちょっとした吹雪きになっていた。まだ冬眠していない熊がでるから、、と、熊撃ちハンター同行の、エキサイティングなものだった。野生のわさびを採ったり、誰も歩いていない場所に道を付けたり、薮をこいだり、、、そんな数日を過ごしていた。それからホンの数日で 今度は常夏の母島である。

    まぁ 長い船旅だから、その間にそれなりに身体も適応するだろうとタカをくくっていたのだが、やっぱり粋なりの気温の急変、この暑さはこたえるものがある。身体の方は そんなに簡単に適応できる範囲を逸脱していると言わんばかりに、だるさをもってきてくれる。まずは様子見とばかりに 一便だしてみようと思う。



    荷物である材料はとりあえず、丸太で出来た”胴木階段”。これは 登山道の傾斜のきつい箇所に使うものだ。この時点では他の材料はまだ到着していないので、選択の余地は無い。これを運ぶしかないのである。

    実はこの丸太階段が軽く、荷造りもやりやすい。運びやすいのである。身体の様子見には申し分ない。軽いと言っても15キロ近いので、、いや もう少しあるかも知れないな。その丸太階段を一度に2本、つまり30キロくらいになる荷物を背負子に付けて荷揚げをするのである。

    それにしても うず高く積み上げられた丸太の山を見てしまうと、”本当に全部上がるのかな?”っと 少々考え込んでしまう。まぁ ゆっくりやるべぇ〜か。



    出発点の農業用ダムの近くから、荷上げ道として使っている”乳房新道”を登っていく。この道は一般登山道ではないので道標もなければ整備もされていないが、今回目的の場所にボッカするには 一応近道なのである。前回の時にも使っているので 良く知っている道ではある。入り口からシュロやタコの木の平坦路を歩き始めて暫くすると、大きなガジュマルのある場所に出る。あっという間に大汗が吹き出てくる。ガジュマルの木の辺りには、必ず人間の居た形跡が残されている。何故かといえばガジュマルは 人工的に暴風を目的として持ち込まれたものだからだ。ここのガジュマルの所には防空壕として使われていたのだろうか? 大きな横穴と、コンクリで出来ている水場かな?そういったものが残っている。
    ここから緩やかな登りとなり、昔は畑だったとおぼしき場所を過ぎていく。ジャングルが少し開けており、明るくなるからすぐ解る。小笠原の土は赤っぽい滑りやすい粘土質の土で 辺りはうっそうとしたジャングルになっている。メグロやメジロは、そんなに貴重ではないかのように そこいら中に飛び回っている。ジグザグを過ぎ、ちょっとだけ急になった滑りやすい登りを登ると道は左に曲がり、右手に小さな横穴を見送りながら、だらだらと登っていく。ここから一旦緩やかに下ると東崎の見える辺りまでは 再び登りになる。この辺りは何故か?風が少なく、きつい場所である。
    再び下り、桑の木の生えている所を 少々のアップダウンで通過する。この辺りはマイマイが多くて、いやぁ〜な感じの所だ。近くに寄ればマイマイの臭いがする。母島では メグロやメジロといったかわいらしい小鳥やトカゲなんかは そこいら中で見ることが出来るが、もっと凄い頻度で遭遇してしまうのがマイマイ。中でも良く見かけるのはアフリカマイマイという害虫で、これが本当に多い。ボッカをしている時には 気をつけないとこいつを踏んでしまう。すると”パリッ!”っという乾いた音を残し、ぐにゃっとなる。これがもう気持ち悪い。”うぇぇぇ!”と なってしまう。おまけにこのマイマイ。要するにナメクジやらカタツムリみたいなモンであるから、なんかねちょねちょしているし、踏んずけると良く滑るのである。 ただでさえ重荷の材料を運び上げるボッカだから、少しばかりバランスを崩しただけで すってんコロりん。運が悪ければ 転んだトコにも別のマイマイが”パリッ!” もうこうなると悲惨である。マイマイの気色悪い臭いに取りつかれ、べっちょ!



    桑の木の場所からは、右上する第一の急登が登場する。坂の中間くらいに太い木が生えているので、一気に登りきれないときには この辺りで一旦呼吸を整えて登っていく。丁度いい具合に 平べったい不思議な根っ子が張りだしていて、足が引っ掛かる。この辺りに足を置いて休むと、まぁ楽なようである。変な所で止まってしまうと、滑りやすい土なので 休むどころか!余計に疲れる様な事態にもなりかねない。だから なんとなくパターン化した休憩ポイントが自然と出来上がってくるのである。少しで痩せた尾根上に這い上がると風が抜けるようになるが、もう一踏ん張り登りが続く。登り終われば左方向に緩く下り、樹林帯へ。うっそうとした なんとなく居心地の良さそうな場所である。メグロも多い。左にかくっと曲がる辺りには根っ子が張りだしているから、疲れてくると足首を捻ったり、滑ったりする。その先で横になった、、上手にやれば荷物を背負ったまま座って休める木を さながらシケインのように通過する。
    さて ここから前半の急登へのアプローチ。まずは序の口の登り。左右に蘭が寄生している木があり、その先で 2本に分かれた木があるので必要なら呼吸を整える。さらに登り続け 様子伺いにやってきたメグロを気にしながら左に傾斜の落ちた所をトラバース。メグロというのは不思議なモンで、ゆっくり歩いて苦しそうにしていると 僕に合わせて平走して 枝から枝へと ちょこちょこ付いてくる。とっても興味深々なのだ。人懐っこくとってもかわいらしい。嫌気が差している重荷を背負っている来客に、少しだけ潤いを与えてくれる訳である。そして目の前にハイライトの急登が望める。急登の下では思う存分呼吸を整え、急登は一気に上がってしまいたい。”さぁてと、、”と 力を振り絞り登っていくが、これがまた良く滑る。前回のステップは もうほとんど無くなっており、ただの粘土質の急坂だ。”やば”と思ったときには なんとか横の木に捕まり、もうとにかく上に抜けようとじたばたするが 足場が悪すぎる。南国の木々は その温暖さからすぐ育ってしまうので、柔らかく折れやすい。思いっきり体重を預けると折れてしまうから生きた心地がしない。とにかく転落は免れたものの、なんとか身体と荷物を引きずる様にして、やっとこ上に抜けた具合である。



    急坂を登りきった場所は、一般登山道に合流する。ここからは とりあえず整備された道になる。丁度分岐になる場所には、シェルターという休憩所みたいなものがあり、前回の時には ここが良い休憩ポイントになっていた。水やら煙草やらをデポしておいた。こうして事細かく書くと、これまでの道のりはとっても長く感じられるのだが、実際にボッカしているときにさえも、25分か30分位の行程である。重荷を担いでのボッカだし 自然と足元はゆっくり、注意しながら進む事になる。おまけに一日に何回と無く往復することになる。それが数週間。だから 誠に良く観察しているし、良く覚えてしまうのである。前回はは天気の悪い日や風の強い日には、ここまで一旦ボッカしておいて、上の方に行けそうな時には、ここから中継するようにしてボッカを続けていたのだった。言わば中継基地だ。

    母島は太平洋の中にポツンとある島なので、湿気を含んだ西風が この辺りの乳房山の稜線に当り雲が出来、雨を降らすようである。平らな海を渡った風は思いっきり湿気を含む。それが母島に到達すると乳房山の傾斜に従い一気に上空に押し上げられる。押し上げられた空気は一気に気圧が下がり冷えてしまうから、含まれていた水分は冷やされ水滴になる。それなので乳房山周辺はガスに包まれることが多い。だから、町中では晴れていても、乳房山ではガスの中、、という事も多くある。また、主稜線になるため風も強い事がある。そこで編みだしたボッカのやり方だった。
    さてと。 あれ? なんということだろう。既にシェルターは壊されてしまっている。 そう、今回の整備で 新しいシェルターに作り変える予定になっているので、もう 壊してしまったみたいだ。なんだ、休憩場所が無くなっちゃったじゃないか。残念だが仕方ない。残っていたシェルターの残骸を集めてきて、なんとか荷物を置けるような場所をこしらえる。これでとにかく中継ポイントとしては使えるだろう。 前回同様に水筒となるペットボトルを置き、なんとなくそれっぽくなってきた。



    ここからは乳房山の主稜線になる。暫くは暗いジャングルをだらだらと進み、横たわる木を2本やり過ごす。この先で長い階段の登りが始まる。最初は50段くらいだろうか? 傾斜を緩める事無く一気に登っていく。これから何回、ここを登るのだろうか?と思うとバテても居られない。大汗が吹き出てくる。めっちゃんこ暑い。登り詰めた場所は南と西側に視界が開けて、見晴らしのよいポイントになっている。元地の部落が良く見え、海の向こうには向島、平島、、、島の南端の南崎や小富士の方面まで見えている。さらに向こうは姉、妹、、、っと母島列島が一望される。風も心地よい。また、ここから眺めていれば、ホエールウォッチングのシーズンには、あっちこっちに潮吹きの様子が遠望できるのである。

    この先少しだけ下り、再びジャングルに入る。そして窪地を過ぎれば第二の急階段が始まる。稜線の東側をぐんぐんと登ると”カクっ!”と向きを変え、もう一度”カクっ”と曲がるとシマザクラがあり、その先 狭い岩尾根になる。以前、荷上げ中のつるちゃんが落っこちたといういわく付きの難所?。その時には、下のブッシュに引っ掛かり止まったそうである。そう言われると危ないような気になってくる。稜線が狭いうえに 思いっきり風が抜けるので、重荷ではついつい慎重にならざるを得ない。晴れていれば視界も美しく、眼下を飛ぶノスリが眺められる、東崎の方の海には 時折マンタやカメが泳いでいるのが見える。今回の整備では この辺には石で階段が出来る予定になっているから、この次に来たときには もう少し楽に通過できるようになるかも知れないな。この先登りきれば 両側にブッシュが張りだした狭い箇所を通過する。半袖の腕に枝がまとわり付いて引っ掛かり、あまりうれしくない。正直かなり邪魔臭く、痛いのである。東側の斜面には、見事にハマボウが咲いている。ハマボウは 不思議な花である。咲いているときには黄色い色をしているが、ひとたび木から離れてしまうと その花びらは薄紅色のなんとも言えない色に変わってしまう。



    道はここから左側、主稜線の西側に回り込むと、ほとんど水平になる。暫く行くと狭い個所をいくつか通過する。普通に登っているならナンということなく通過できるのだが、こちとら丸太を担いでいるから あっちこっちに引っ掛かりまくり非常に不快である。しばし進めば広く開けた明るい場所に出る。さしずめ”お弁当広場”と言った感じである。

    お弁当広場のシェルター辺りから南崎を望む

    ここにもシェルターがあったのだが、これも作り直すために今は壊されてしまっている。古びた感じが旅情をそそり好きだったのだが、少し残念だ。ひとつ上の段の段々には キバンザクロがあるから、実のなるシーズンには要チェックだ。キバンザクロ酒は結構イケるのである。最初に来たときにはカマさんが作っておいたものを貰って、毎晩のように飲んでいた。
    ここにはベンチがあった。休んでいるとメグロが”チュンチュン”と寄ってきては去り、またやってきて、、と ”メグロポイント”である。水を差し出せば、本当に近くまで寄ってくるから楽しい。見ているだけで飽きないものである。足元に目をやれば、アノールというカメレオンみたいに色が変わるトカゲが ちょろちょろと出没する。お弁当広場は なかなか平和で楽しい場所なのである。

    再び狭い箇所を縫うように道は進み、頭上で丸太は あちこちにぶつかりまくる。一旦 ミウラーの壊した坂を下り ぐねぐねと行くと少し平べったい場所を通り、一旦下ると最後の登り。ここが今回のボッカの最終ポイント。

    この先登山道はハチマキと呼ばれる。昔は稜線伝いに道があったのだが、東側の斜面が崩れてしまって 空中に飛び出るようになってしまい、危険になったので道を半ば無理やりに西面に付け直したのである。山頂へはこのハチマキの木道を通り、2ツくらいのピークを越え アップダウンを繰返しながら最後の急登を登りきれば山頂に達する。山頂の一つ手前のピークが尖っていて 一瞬山頂に見えるのだが、山頂には どうみてもコレと判る”展望デッキ”があるから絶対に間違わないだろう。この展望デッキは 前回作ったものだ。



    ”やっと着いた。”

    とにかく暑い。風も少ないし、、なんでもいいけど疲れてしまった。一服つけ しばし眺めを楽しむ。あと何遍この景色をみるのだろうか?不思議だなぁ、何度見ても美しい。もっと見ていたいという気がするのである。とりあえず今日のところはこのへんにして そそくさと下に戻ることにしよう。また来ればいいんだから、、、、それにしても こんな調子じゃマズイ!なぁ。。

    下りは荷物の丸太が無くなっているので楽といえば楽であるのだが、これが一日で何度もやっていると結構辛くなってくるモンである。それも毎日毎日、来る日も来る日も。。。帰りがけに 荷物に引っ掛かる枝を整理しながら歩く。ちょっと除ける動作も、重荷と繰返しやっていると結構な体力の消耗をさせてしまうのである。ただし 道端に生えている植物には非常に貴重なものも多く、切ってしまうなんて 大問題になってしまう。何せ島中の植物のほとんどが固有種なんだ。できるだけ切らずに、ヒモで結んで止めてみたりする。とりあえずボッカの間だけ除けていてくれれば それでじゅうぶんなのだから。。とは言ってもこの作業も結構面倒で大変なモンなんだ。

    この後2便ボッカして、初日はバテバテの中作業終了。限界まで疲れ果てている。



    居酒屋コーハツに戻ると、とにかく前田に向かう。交番と川の反対側に在る前田商店のことだ。ここで発泡酒を1缶、自動販売機で買ってきてプシュ! これから毎日こういう感じに夕方は過ごすことになる。 気が向けば、前浜辺りまでぶらぶらしてみる。そんなのもイイのだが、とっても近いのですぐ終わってしまう。

    飯を食った後は またまた宴会。そして今日も終わっていくのであった。

                        

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