テープコンプ
アナロゴレコーダーの録音レベルは、チト複雑である。
単純にレベルメーターの標すところのレベルの事を指すことも有るし、もっと深い意味のレベルを指すことも有るからである。
レベルメーターのレベルだけを見ていればいい状態ではそれで良いのだが、そうでない場合はかなり熟練が必要になる。いわゆるテープコンプなどという状態は、このあたりが理解できないと、単に歪んでいるだけになってしまう可能性もある。もっとも最近では、こうした単純に歪んでるものも含めて テープコンプと ごちゃごちゃにされている感じが有る。結果的にカッコ良ければそれはそれでオーケーであるからして、”使えた”という事実だけで成立してしまうのだが、まったく情けないといえば情けない。
テープと言われているものは ビニールなどのベースの上に、細かな磁性体と言われているパウダーが綺麗に塗り付けられている。ベースや磁性体、その塗り方の違いにより、様々なタイプがある。もちろんテープの巾や厚さといったものでも違いがあるから、使うテープによって様々であるが 原理は一緒である。
この磁性体は、磁界に入ると その磁界に応じた磁気を帯びる。これを磁化するという。録音ヘッドはこの磁界を起こすために付いている。一旦磁化した磁性体は、ある期間に渡りこの磁化を維持することが解っている。この現象を利用したのが磁気テープなのである。
【バイアス】
この時、磁界と磁化の間には複雑な関係になっており、磁界が2倍になったからと言って磁化も2倍になるとは限らない。反応の仕方は磁性体の特性にも寄るのだが、おおむねぐちゃぐちゃ。つまりリニアリティー、線形性はない。そこでそのぐちゃぐちゃな特性の中から、まだリニアリティーの保たれている部分だけを使うために、バイアスといものをかけておく。バイアスにより磁性体には常に ある一定量の磁界が与えられている。つまり記録されるべき信号がゼロの場合でも、テープには常にこのバイアス分に磁化されている。買ってきたばかりのテープは全く磁化されていないから、無信号でも録音した部分としない部分の境目ではノイズがでると思う。
このノイズは、バイアスされている部分と無バイアス部の切り替わる場所になる。
【テープコンプ】
バイアスをかけて、信号のレベルを上げていく。
つまり、さらに磁界を大きくしていく。当然 磁性体が磁化される量が増える。特性的にリニアリティーを保てる部分を選んでバイアスをかけて使っているので、当分のあいだはリニアリティーが保たれているが、この部分を越えてしまうと、磁界の変化に対して磁性体の磁化する割合がついてこなくなる。これを、いわゆるテープコンプというのである。ある点を境に 磁界は2倍になっているのに磁性体の磁化は1.8倍というような感じで、さながら1:0.9の割合でコンプレッサーをかけているような感じにも見えるから そう呼ばれるのである。この失われた線形性は、コンプのように常に一定の割合でなく、さらに磁界がおおきくなればば1:0.5になったりして、どんどんと比率がきつくなってくる。つまり コンプ的に見れば、スレッショルドが高くなるとレシオもきつくなっていく。この変化はレベルによって 目まぐるしく変動する。これがテープコンプのテープコンプと呼ばれる所以である。常に一定ではないのである。
【モル】
さらにレベルを上げていくと磁界は増えるものの磁性体はそれ以上磁化しなくなる。この最大限磁化できる限界を モルという。つまりここで磁性体はもう磁化しなくなるので、丁度リミッターが掛かったようになる。これ以上信号を加えても 磁界は変わらず、オリジナルの信号は、そのまま復元できないような状態になる。テープコンプの状態から、このモルの状態までは、元信号に対して復元(再生)される信号は 特性が変わってしまい歪んだ状態になる。別にディストーションをかけたような音になるわけではない。単純にリニアリティーが失われている状態になるだけである。結果的にモルの状態では、元信号の波形事態が失われてしまうために、ディストーションと同じような状態にはなる。この辺りを称してテープコンプというのが一般的である。
お解りいただけるであろうか?
【間違ったテープコンプ】
そうか、単純にレベルをぶち込めば テープコンプがかかるのか!と思った人も多いだろう。ところが違うのである。
当然なことではあるのだが、テープレコーダーは忠実な原音再生を目指して設計されている。つまり、テープコンプの掛かるような状態で使うことは、本来設計範囲に入っていない。要するにテープコンプ自体が間違った使い方なのである。
もし単純にテープコンプが掛かるくらいになるまでレベルを上げていくとすると、テープに達する前にある様々なアンプの許容範囲を越えてしまうことがある。元来そんな高いレベルを取り扱うように設計されていないのである。プロ機には それなりに許容範囲の広く対応しているものもあるし、そうでないものもある。結果的にたまたま許容しているものもあるが、そんな限界を超えた使い方は、最初から想定されていたものではないのである。では、そうするとどうなるかというと、各素子がオーバーロード状態になったり、電源が不足になる。結果として いわゆる回路歪み、ディストーションが起こってしまうのである。再生系にしても同じことで、そんな大きな信号には対応しきれないものも出てくる。そうすると回路自体がオーバーロードしてしまって歪むのである。
この時、結果としてテープ自体には回路で歪んだ信号は加わるものの、実際にテープコンプのかかるようなレベルの磁界が与えられているかというと、必ずしもそうなっていない。要するに単純に回路がオーバーロードしてしまって歪んでいるだけである。
これでは、テープコンプというよりは、テープレコーダーコンプ。いや、回路コンプといえばいいのか?
いや 違うんだな。これでは、単に歪んでいるだけなんです。
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