1998年04月26日
日光男体山
新緑が奇麗だ。
雨に濡れてその美しさは、ますます生き生きと その存在を精いっぱい輝かせている。
私は 雨の日の山登りは、他の人が嫌うほど嫌いではない。危険な登攀をするには確かに厳しい条件であり、不適当かも知れない。しかし、そんな雨の日の山はというと、木々の緑は水を得て ますます生き生きとなり、動物達もゆっくりと休んでいる。山もモードお休みで、ひときは 優しい。何よりも 人々が少なく、とても静かだ。
山の大きな懐を一人で独占し 堪能するのには、非常に都合が良い。
4月26日。朝 いつもの部屋で目覚めてみると、予想通り 天気は雨。屋根に当たる音は小さいながら、近くを通り過ぎる車が立てる跳ね水の音が、そう知らせる。
最近、忙しすぎた。
身体が 休息を欲しがる。
”きょうはダメかなぁ、、、もう一眠りしよう”
ふたたび目を覚ましてみると、さっきより雨足は強くなっている。
”さぁて”
珈琲をわかして、 煙草に火を付ける。
”もともと、、はなから雨だとわかっていたではないか??
そうなのだ、、確かに、、
疲れたことを言い訳にして 眠っていたい僕と、山に抱かれたい僕がいる。なんなのだろう??この落ち着かない気持ちは??既に時刻は8時を回っている。。仕方ない、、まぁ、行くだけ行ってみよう。そそくさと ザックに投げ込む。
日帰りだし、たいした荷物ではない。食料は ずぅっと前からの残り物の羊羮とキャラメルしかない。かなり貧弱だが、こんなもんで充分なはずである。一日くらい食わなくても 死ぬことはないから、、それでも、いつだったか、、同じ日光の白根山に登ったときには深いラッセルに苦しめられたことがあった。確か、、同じような時期である。
一応、アイゼン、ピッケル、スパッツ、目出帽、手袋など、、大げさな荷物を放り込んでおく。
高速に流れ込むと、それなりに目的地に近づいていく。単なる”無駄”な出費で終わるような そんな予感も無いではない。
”やめたほうがイイかなぁ”
まだ迷っている自分が見える。
”まぁ、一応 日光の男体山に行くよ”
前から気になっていた山だった。何の気なしに、口から出てしまう。なんだか最近には、こういう山登りは久しくしていないような気がする。集会が終わった後の居酒屋でも、なんだか 久々にうれしくなってくる。
全く行ったことが無いので 半分不安だが、まぁ単なる縦走路だし、今の私が死んでしまうほど厳しい山ではあるまい。
ましてや今回は単独だから、自分で危険だと感じたら、好き勝手に帰って来てしまえばいい。
一人旅は 気ままなのだから、、、
昔はいつも、そんなことばっかりやっていたではないか?
道をわざと踏み外して、地図を頼りに進んでみたり、、とてつもないヤブを突き進んだり、、時にはボロボロの壁に出てしまって、どうにもならなくって ボロボロになって逃げ帰ったり、、あの頃は楽しかった。たいした道具もなく、技術もまるでなかった。たぁだ ただ、体当たりをしていただけだった。山は全てが冒険に満ちていた。いつもいつも、僕に対して挑戦してきたし、見守っていた。 とっても真剣だった。新鮮だった。
今はえらくなったモンだ。山には通い過ぎて、贅沢になっている。
ルートを選んだり、、天気を選んだり、、パートナーを選んだり、、確かに結果としては、単なる”ヤブ漕ぎ”よりはカッコよいが、、、どこか満たされないものは否定できない様な気がする。
いろは坂にさしかかった。
雨は一層激しさを増し、やっぱりよせば良かったな?と思う。水を得て、木々は本当に美しい。丁度新緑だ。彼らが 私をここに連れてきたのかも知れない。とっても鮮やかで、美しい。山桜も華やかに、あちらこちらに咲いている。晴れ姿を見せびらかしてくるので、調子を合わせて、僕も一緒に楽しんでみる。
”招かれたかな?”
不思議な感覚なのだが、僕は山に来ると良くこう感じる。そう、最高の自分を見せびらかすために、山が僕を誘い込んでくれる。僕は ”山は登らせていただくもの”だといつも思う。自分の実力ではどうにもならないくらい、山は大きい。招かれて、歓迎されて、始めて山登りは達成できる。山の持つ激しい一面を向けられたら、僕はひとたまりもないだろう。そうして死んでいった人も多いのだろう。今日の山の御機嫌を感じる能力(ちから)は、クライマーなら備えておかなくてはならないだろう。正面切ってタイマンはれる相手ではないから、、今日の僕は、そう、どうやら招かれて居るようだ。
猿も出てきた。自然は厳しく、優しく、美しい。
中禅寺湖に到着。何故か 雨があがってしまう。どんよりと澄んだ湖面が写しだされる。
二荒山神社につくと、どうやら山開きは5月5日らしい。まだ一週間くらい早すぎた。
受付のちょいとかわいらしい娘に”ちゃんと準備をしてきたんだけど、登っちゃだめかな?”と聞いてみる。チャンと準備してきたもないよなぁ。もう既に11時半をまわってる。チャンとしてたら もう少し登り始めは早いだろうし、、、不真面目きわまりないなぁ。
おそれ多くも、二荒山神社奥宮である。信仰の御神体そのものを登ろうと言うのであるから、馬鹿にしすぎている。娘はというと、まじめに社務所と掛けあってくれている。なんとも清らかなものを感じた。
11時40分二荒山神社、登拝門。
門は固く閉じられている。山開き前なので当たり前か。門の右側から、踏み跡をたどり、登山道に入る。許可されたとはいえ、なんだか緊張する。一応”何人たらずも入るべからず”ですから、、、
とりあえず、おさい銭はふんぱつして、、、500円だまが混じっていた。
一合目には階段をひとかたまりですぐに達する。二合目も10分くらいの緩い木立のなかを進むと着く。なんてことはないが、樹林帯は大きな木がたたずむ コケむした静かな場所で、とっても和む。霧雨の中、静かに時間を感じる。幸い そんなに寒くはなく、、充分に快適だ。しかし、なかなか 身体が山になじまない。
最近の自分のやっている山登りを振り返り、何か違っている物を感じざるを得ない。
3合目から4合目は 舗装された林道歩きとなる。都会の汚れだ空気を身体中から搾り出す為に、一生懸命歩く。たんだんと 山に馴染んでいく僕を感じるが、まだまだ、違う。もっと感覚が澄んでいなくては、いけないのである。
4合目で鳥居をくぐり、鉄パイプに導かれて つづら折れの坂を登ると五合目の小屋がある。中には二人居るらしい。小屋の前に荷物が置いてある。別に どうということもないので、そのまま通過する。五合目からは岩が混じる様になる。
少し行くと血色のよい まるっこいおやじが下りてくる。”いってらっしゃい”と とても落ち着いていて温かい言葉を頂く。
ふもとで聞いた、毎日登っている人というのが、このおやじだろう。
なかなか”いってらっしゃい”とは言えないよなぁ。。彼は この山に本当に溶け込んでいる。うらやましい。
肩の力が抜けていて、山が彼の回りにくっついてきているようだ。
六合目で一本とる。(1247/1253)天気が良ければ景色が良い場所なのだろう。残念だなぁ。でも そう、さっきから雨はほとんど降っていない。この悪い天気図の中 ナンだか精いっぱい僕を歓迎してくれているみたいだ。
ここからはしばらく巻き道を辿る。岩交じりのガレを進むと7合目の掘っ立て小屋につく。とても宿泊は出来ないだろうが、雨はしのげるだろうなぁ。また、ガレを進む。7.5合目という場所には、”ジュース”と書いてある。その辺にジュースが湧いてるのかな???そんな事はありえないかなぁ?
7.5合目にあるトレースを辿ってみると、地山工事の現場だった。ワイヤーロープがあちらこちらに張り巡らされ、土砂の流出を防ぐ壁を固定している。すさまじい崩壊だ。
普通、山のルートは 弱点を登る物だが、ここでは弱点は崩壊してしまって 登るどころでは無いようだ。
山が精いっぱい頑張っている場所を、登山道として拝借している。
八合目には”瀧尾神社”のほこらがあり、一本取る。(1325/1335)
山を汚す登山者は、
猿より頭の
毛が三本?
空き缶、ゴミ、良心は、
持ち帰ろうね。
なんだか 意味不明の文面が目に飛び込む。
考えれば考えるほど、よくわからん。
ナンで 猿なんだ??
毛が三本?って、、、なんかのことわざかな。
ここから一登りで傾斜も落ち、とってもふかふかした土の道となる。火山性の石ころも目に付く。ネットで土が流れないように保護がしてあるが、それを止めてある杭も、足で踏み付けると潜り込んでしまう。泥が 信じられないくらい柔らかい。豊かな土なのかな?
九合目より雪が多くなる。とはいってもかわいいものである。どろどろぐちゃぐちゃと、、いれかわり立ち代わり、、、九合目を過ぎると、木立が低くなってきた。森林限界の様相を示してくる。森林限界がくるのかな??
風も強くなる。
ザラザラの火山性のレキの中を過ぎると、赤い火山れきに覆われたザレになる。
石コロが 雨に濡れてめちゃくちゃ美しい。秋のナナカマドの様だ。右側には黒い石の壁があり、そのコントラストも見事だ。
奥宮到着。(1405/1435)
だぁれもいない山頂を独占してみた。霧雨の中、何も見えない。
山頂には御神体らしく、祠などが冷たく存在する。
いったい何人のひとが、古くからここを訪れたのだろうか?
何を求めて、登ってきたのだろう??? わざわざ 祠なんてつくったりして、、、
ただ、解ることは、この次ぎ僕がやらなくてはいけないことは、下山するという事だけ。
ゆっくりと 元来た道を 辿り始める。むかしは 下界に下りる、、なんて 感じていた。
戻るとか、帰るという感覚は、山に入るときに感じていたものだ。
今はというと、、、どうなってるのだろう。。久しぶりに里帰りしたようでもあり、、馴染まないものもあり、、
登拝門までは、ほどなく下ってしまう。
下界に到着だ。
さぁて、僕ははたして 戻ったのか??それとも行ったのかな??

うえるかむ らんらん わあるど。
●山岳ガイド 木村道成オフィシャルページ
素晴らしい山々や人々との出逢いを大切に安全第一をモットーにガイドをしています。大自然から戴けるエネルギーや感動を皆様と分ち合えたらと思っています。
日本山岳ガイド協会認定上級登攀ガイド 木村道成
上高地に程近い、長野県波田町在住。ガッツあり、日本中を飛び回っています。非常に前向きであり信頼でき、それでいてとても楽しい方です。サイトは写真もとても美しい。一度見てみてください。メロンパンが大好物です。


